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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)5215号 判決

主文

原判決(但し、無罪部分を除く)を破棄する。

本件公訴事実中、被告人が昭和二五年四月八日頃より同年六月一七日までの間にした窃盗の罪(第一審判決末尾添付犯罪一覧表第三記載の7乃至11、21、31乃至36の事実)につき被告人を懲役六月に、昭和二七年二月二七日より同年一〇月下旬までの間にした窃盗並びに同未遂の罪(前同1乃至5、23乃至30、37乃至45の事実)につき被告人を懲役六月に処する。

本件公訴事実中、被告人が昭和二五年八月五日頃より同二六年一月一七日までの間にした窃盗並びに同未遂の事実(前同12乃至20、22の事実)につき、被告人は無罪。

理由

被告人の上告趣意は憲法違反を主張するけれども、その実質は事実誤認の主張に帰し、弁護人楠木計夫の上告趣意も事実誤認の主張を出ないから、いずれも刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

しかし、職権を以って調査するに、法務省矯正局指紋係の昭和二九年二月二七日附指紋照会回答及び東京高等裁判所昭和二五年(う)第五三〇九号(東京地方裁判所同年(わ)第四二五三号)佐野河裕司に対する窃盗被告事件の記録によれば、被告人は昭和二五年六月二四日窃盗現行犯として逮捕され、同年七月一四日佐野河裕司の名で東京地方裁判所に起訴、同年一一月二九日同裁判所において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ、該裁判は同二六年一月三一日被告人の控訴取下によって確定したこと及び被告人は右逮捕に引続き蔵前警察署または東京拘置所に勾留され、右裁判確定までの間一度も釈放された事実のないことを認めることができる。して見ると、原判決の認定した犯罪事実中、被告人が昭和二五年八月五日頃より同二六年一月一七日までの間一〇回に亘り単独または伊藤隆夫と共謀の上、神奈川県茅ヶ崎市内または東京都世田谷区内においてした窃盗及び同未遂の事実(主文第三項掲記の事実)については、その当時被告人は東京拘置所に拘禁中であり、これらの犯罪を行うことのできない状況にあったことが明らかであるから、原判決がこれらの事実に関する被告人の第一審公判廷の供述及び控訴趣意を排斥し、公判廷外の自白等によりこれを認定したことは、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認であるといわなければならない。

よって、刑訴四一一条三号により、原判決(但し、無罪部分を除く)を破棄し、同四一三条但書に基いて、更に次のとおり判決する。

原判決が認定した犯罪事実中後記無罪部分を除くその余の事実を法律に照らすと、被告人の各所為はいずれも刑法二三五条、二四三条(未遂の事実につき)、六〇条(共謀にかかる事実につき)に該当するところ、

(一)  昭和二六年一月三一日以前の犯罪事実(第一審判決末尾添付犯罪一覧表第三記載の7乃至11、21、31乃至36の事実)につき、右は前示確定判決を経た罪と刑法四五条後段の併合罪であるから、同五〇条四七条一〇条により犯情の最も重い原判示森岡節子の所有品に対する罪の刑に法定の加重をなし、その刑期範囲内において被告人を懲役六月に処し、

(二)  同日後の犯罪事実(前同1乃至5、23乃至30、37乃至45の事実)につき、右は被告人の前示前科(刑の終期は昭和二七年四月二日、但し、同二六年一一月一六日仮釈放)及び昭和二四年七月一九日新潟簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年二月に処せられた前科(刑の終期は昭和二五年八月二五日、但し、同年三月二三日仮釈放)の一方または双方に対し再犯の関係にあるから、それぞれ刑法五六条五七条を適用して累犯の加重をなし、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法一四条、四七条、一〇条により犯情の最も重い原判示久保安憲の所有品に対する罪の刑に法定の加重をなし、その刑期範囲内において被告人を懲役六月に処することとする。

なお、本件公訴事実中、被告人が昭和二五年八月五日頃より同二六年一月一七日までの間に一〇回に亘り単独または伊藤隆夫と共謀の上、神奈川県茅ヶ崎市内または東京都世田谷区内においてした窃盗及び同未遂の事実(前同12乃至20および22の事実)については、前段に説示したとおりであって、犯罪の証明がないから、無罪を言渡すものとする。

右は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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